一般公開中の10/25に,D1松山君の原著論文が公開になりました。
松山・揚妻・岡田・鈴木 (2019) シカの排除がマダニ類へ及ぼす影響 ̶シカ密度を操作した野外実験による検証̶.衛生動物 70:153-158.
※「衛生動物」は日本衛生動物学会の学会誌です。
ニホンジカやイノシシなどの動物が増えるとマダニが増える,と一般には考えられています。それでは,これらの動物が減れば,マダニはすぐに減るのでしょうか?
マダニは様々な野生動物から吸血することが可能です。たった1種類の動物が減っただけで,本当にマダニは減るのでしょうか。それとも,すべての野生動物を絶滅させでもしなければ,マダニは減らないのでしょうか。
この問いに答えるため,松山君は,北大・苫小牧研究林のニホンジカ密度管理実験区でマダニの密度変化を経年追跡しました。
確かに,長年シカが高密度で生息していた実験区では,マダニの密度も高く,10年以上シカがいなかった実験区では,マダニの密度も低く抑えられていました。ただし,シカを何年も高密度で飼った後で追い出した実験区では,シカがいなくなって3年後にようやくマダニの密度が減ってきました。
こんな複雑な結果をもたらした原因は,マダニの変わった生活環にあるようです。マダニはゲームのキャラクターみたいな生き物でして,吸血に成功する度に次のレベルへ移行し,利用できる宿主が変わる…と,詳しくは原著論文をご覧ください。
個体群生態学的にネタ満載の生物であるのにも関わらず,日本では,野外での生活史や個体群動態に関する先行研究が乏しいようです。松山君の今後の研究が期待されます。
あ,ちなみにこの記事では簡単のため「マダニ」とか言ってますが,マダニ属とチマダニ属の多数の種の総称(俗称)です。それぞれの種類が異なる宿主を好み, 別の病原体を運ぶとも言われます。病気の予防に役立てるには,それぞれの生物の動態について,さらに詳しい研究が必要です。